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家をつくることは 夢をあきらめること

昨年末に新しい住宅の計画が始まりました.

家づくりを漠然と考えるようになって以降、
クライアントの心の中には様々な希望や要望が思い描かれてきました.
それらはそれぞれに持っている価値観の断片であり、尊い想いです.
中には泡のように消えていく想いもあれば、心の底に沈殿し堆積していく想いもあります.

設計はそんなおぼろげな断片の散らばりに境界線を引くことだと思う.

敷地や周辺環境、構造といった物理的な条件や予算や法律といった制約を考慮して
無数の選択肢の中から素材、寸法、納まり等を決定する作業を何度も繰り返していく.

設計は「おぼろげ」な状態を「おぼろげ」なままに実現することはできない.
建築は具体的な形や機能をもつものとして成立しなければならないので、
「おぼろげ」な散らばりの中から具体的にひとつひとつ拾いあげていく.

つまりある基準や根拠で、採用するものとしないものを決めることになる.
そう考えると、家をつくることは夢をあきらめることでもあるという言い方ができる.

昨年末に具体的な建築地や予算等の方向性が出たけれど、
その瞬間にそれまで検討していた他の候補地や予算の幅についての可能性は立ち消えて、
それに関連したクライアントの希望もそのまま叶うことはなくなりました.

建築士は夢を実現することと夢を潰すことを繰り返し行ないながらあるべき建築の姿を探る.
クライアントは夢がついえることの辛さを知ることになる.
だけど、あるべき姿は探らないとたどり着けないので、
物事をポジティブに捉えて夢を整理し、前に進んでいける力が求められる.

それが、建築士と一緒につくる家づくりの面白さであり醍醐味だと思います.

学生時代、大谷弘明さんが設計された自邸「積層の家」を見学した際に、
「この場所(都心の狭小地)で生きていくために、自家用車を手放すという選択をした」という旨のお話をされていました.
その決断の結果として豊かな住居空間が成り立っています.

人間の欲は果てしなく、限りが無い. とすると、
現実を受け入れ、夢に優先順位をつけて、主体的なあきらめができることが
バランスのとれた着地点を見出し、心と空間の充足につながるのではないかと思います.